2004-06-01から1ヶ月間の記事一覧

地底人と、コーヒーの功罪について。

どんよりとしたカーボン紙みたいな闇夜が次第に熱と光を帯び、白濁色の光彩が朝の空気に膨張し始める。それはやがて鮮やかに透き通ったオレンジ色となり、町の隅々までに一切の余白すらない程までに広がっていった。 僕と彼女はベットの上で、一枚のカーキ色…

『観覧車』

夏草が陽光をたっぷりと吸い込み、風がカサカサと潮の音を運ぶ。耳を澄ます。カモメが中空で旋回する。 広大な芝生の斜面をどこかの子供達が転がっていく。空には千切れた雲の端切れが斑点の様に澄み切った空にぽっかりと浮かんでいる。 16年ぶりに再会し…

アメリカン・モーニンング(前編)

『さよならを言うのは、わずかのあいだ死ぬことだ』(『長いお別れ』/レイモンド・チャンドラー) * * * * * * * 父は故郷を失った。 ここでいう故郷とは非常に限定された便宜的な意味合いを持つのかもしれない。 父の故郷は今も存在するし、これからも存在…

アメリカン・モーニンング(後編)

土曜日は少しばかり雨が降っていた。凄く弱い雨だ。 次の日に誰がが「昨日はいい天気でしたね」と言っても信じてしまいそうな雨降りだった。七時少し前だったので僕は駅から吐き出される人の流れを観察していた。折りたたんだ傘を持ってる者、傘をさしている…